東京農工大学は,超高屈折率・無反射な新材料によるテラヘルツメタレンズの設計指針を構築した(ニュースリリース)。
現在,ミリ波よりも周波数が高く,可視光よりも周波数の低いテラヘルツ波帯の電磁波を利用した 6G(Beyond 5G)通信が期待されている。また,高温の熱源から排出される熱放射(赤外域の電磁波)を再利用した熱マネジメントが待ち望まれている。
これらのテラヘルツ波帯や赤外域の電磁波の制御にはドーム状の厚みを持ったレンズがよく用いられる。しかしながら,テラヘルツ波帯光源への集積化や製鋼スラブなどから排出される熱放射の制御に向けて,光源への集積化や既存の構造物・空間に後から導入するために,平面で薄型なレンズが求められている。
研究では,超高屈折率・無反射な人工構造材料のメタサーフェス(特許第 6596748号)を応用したテラヘルツメタレンズの設計指針を1THz以上の電磁波領域で構築した。このメタレンズは,誘電体基板の表裏に対称に配置したカット金属ワイヤーによって作られた波長より小さな構造であるメタアトム(メタサーフェスを構成する電磁波の波長に対して微小なサイズの構造体)で構成され,材料の誘電性だけでなく磁性も人工的に制御している。
また,周波数が高くなると金属の導電率の実部と虚部の両方を考慮する必要がでるため,カット金属ワイヤーの導電率はドルーデモデル(金属の自由電子の運動を運動方程式によってモデル化し,金属の導電率の実部と虚部を推定する手法)による値を用いた。
このような人工的な複合材料でできたメタレンズは非常に薄いことも特長となる。一例として設計した,厚さ約2μmのメタレンズによって,3THzでパワー密度4.6倍の高指向性を実現できると見積もっているという。
超高屈折率・無反射なメタサーフェスによるメタレンズをテラヘルツ波帯光源に集積化することで,6G以降も見据えた無線通信でのビームフォーミング技術に貢献できる。さらに,この設計指針を数10THz以上の赤外域へ適用することで,製鋼スラブなどから排出される熱放射を特定方向に集中させるなど熱マネジメントへの応用も期待できるとしている。